- 団地に住む小学生が失踪しては数日で戻ってくる出来事が立て続けに発生している。ついては事件解明に力を借りたい。そんな匿名の情報提供を受けたゴシップ誌『月刊ウラガワ』の新人編集者・猿渡は、フリー記者の佐々木とともに現場となった城野原団地での取材を開始した。状況から家出がいたずらであることは明らかだったが、猿渡らが失踪方法をつかめぬうちに、別の子供が教師に見張られた授業中の学校から忽然と姿を消してしまう。彼らはどのように失踪を続けているのか、そしてその目的とは――。子供たちの切実なる闘いを描いた傑作ミステリ長編。
著者メッセージ
新型コロナウイルスの蔓延が続く中、今年も夏が訪れようとしています。
まさか作中の子供たちだけではなく、日本じゅうの人々から《楽しい夏》が奪われることになろうとは、本作を執筆していた2018年当時の私には知る由もありませんでした。いまあらためて本作を読み返すと、子供たちの切実な思いをこめた闘いも、少し違って見えるような気がします。
昨年以降、さまざまなエンタメ業界が壊滅的な打撃を受ける中で、私は文化の灯火を守らなければならないと思う一方、それは携わる人々を病魔の危険にさらすのと表裏一体でもあり、どうすればいいのか、自分に何ができるのかと、絶えず頭を悩ませてきました。われわれの想像を軽く凌駕する現実に圧倒され、非常事態におけるフィクションの、あるいはそれに携わる者としての自分自身の無力さを痛感させられもしました。
でも、そういうときだからこそ、フィクションは弱った人の心をなぐさめ、心に寄り添えるものであってほしい。普段はフィクションにたいそうな力などないと、自戒も込めて考えている私でも、そう願わずにいられないのです。外に出られず、人に会うこともできず、つらく寂しい思いをしているとき、本を開けばそこには楽しい仲間がいて、心躍る冒険があって、美しい恋がある。想像の世界の出来事から、苦しい日々を生き抜く活力を受け取ることができる。人間は、そういうしたたかさを持った生き物だと思います。
残念ながら今年の夏も、大手を振って楽しめる季節にはなりそうにありません。私の夏を返してほしい――そう憤っている方にこそ、この楽しい夏を取り戻すべく奮闘する子供たちの物語を読んでいただけたらうれしいです。当たり前の日常が実は戦いの末に勝ち取ったものであること、コロナ禍を経験した現代の人々には、きっとうなずいていただけるはずです。
あなたの夏が、楽しいものとなりますように。本作がわずかでもそのお役に立てたなら、作者としてそれ以上の歓びはありません。岡崎 琢磨(おかざき・たくま)
1986年福岡県生まれ、京都大学法学部卒。2012年、第10回『このミステリーがすごい!』大賞“隠し玉”作品に選出された『珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を』でデビュー。同作はシリーズ化され、大ベストセラーとなる。他の著作に〈道然寺さんの双子探偵〉シリーズ、『九十九書店の地下には秘密のバーがある』『下北沢インディーズ』『貴方のために綴る18の物語』など多数。ミステリ作家たちから絶賛の声!
芦沢 央先生
読み始めてすぐ、これ岡崎さんの作品? と感じたのだけど、読了してみれば岡崎琢磨の魅力が全開になった本だった。
軽やかな文章やキャラクターに手を引かれて進んでいくうちに、いつの間にか口の中に広がっている、実在感のある苦味――
今作ではそれが切実さとして胸にまで迫ってくる。書かれるべくして書かれた物語だと感じた。今村 昌弘先生
優れた密室状況、目まぐるしく変化するストーリー、胸を打つノスタルジー、その他諸々が織り成すミステリ・フロンティア100冊目に相応しい極上の作品です。
読んでよかった!
辻 真先先生
秀作だ。この作家らしい清潔なたたずまいの中で、親と子、子供と大人、団地族と既成住宅地、いじめや差別等々の問題を同心円状に展開しながら、等身大の機知溢れる謎と、最終章からエピローグに至る、水際立った省筆法の結び。
すてきなミステリに接して感謝。
感想キャンペーンのコメントを紹介!
読み始めて親の気分になってなかなか進まなかった。学校の先生も気の毒だでも途中からぐんと物語が進んでずっと読んでて夕飯作るのが遅れた。
アレもこれも伏線だった。最後の清涼感が本当にすごかった。みんなで夏を取り戻した。コレは今年の一番。
(石塚美琴さん)ミステリ、小学生、バディと大好きな設定。変化する状況と明かされていく謎が切ない。
「息子がどうしてもやりたいことならば、そこには切実な理由があるのだろうと受け止めている」隼人の母の言葉が印象的。子どもの頃の夏は何もなくても特別だったなあ。
(おっくんさん)夏の庭とか、サマーバケーションEPとか、ほのぼの夏休みモノのよさもありつつ、結構震えるくらいのミステリでびっくり、特に最後の、うんまあこれ以上は。
「逃げて!」のシーンは、さらにそれも囮なのかなと読んだけど流石に違った。タレーランの新刊も早く読みたいです!
(くましゃんさん)久しぶりにミステリーを読んだのですが、やっぱりミステリーってすごい、読むの楽しい!と思わせてくれた1冊でした。個人的には解説の辻先生に全面共感というか自分が感じたこと全部文章化されているなぁ、と。
5章の終盤で、終わり……?いやでもページ数が……と思ったところからの最後の美咲の発言には思わず体がゾクッとしました。
エピローグでは世の中の無常感に寂しさを感じましたが、公園での再開にはその後に色々な想像の余地があって終わってからも余韻にひたれる素敵な作品だと思いました。
(紅茶さん)少年の成長と大人の後悔が混ざり合って成長と変化を生み出す素晴らしい小説でした。もちろんミステリーとしても緻密な采配で伏線を伏せたり回収したりしていて、
真相を追っていく過程を読み進めていくのが堪らなく楽しくて、1つずつ真相に近づいていくたびに明かされる事に惹きつけられます。
(ツバサさん)小学生が金田一やコナンのような事件を起こそう…からの始まりでは予想できない程、とても切ないミステリーだった。
読了後に本を閉じた時、表紙を見て余韻を味わえる作品は良い作品だと勝手に思っているが、本書は最後の余白で余韻を味わった後、さらに表紙でも余韻が味わえる好例。
(つばしゃちさん)幾重に張り巡らされた伏線にどれほど驚嘆し唸ったか。一つの物語にどれだけ組み込んでいるのか。近年読んだミステリーで一番。
子供達の切なる思いに心揺さぶられ、トリックに脳が揺さぶられ、最後に感動で身体が震えた。著者の本気が伝わる最高傑作の一冊。
(てっすぃ~さん)団地に住む小学生が次々に失踪しては戻ってくる事件が発生。編集者の猿渡とフリー記者の佐々木は取材を開始する。小学生の意図的な計画であることは明らかだったが…。
それぞれの夏を取り戻す素敵な物語でした。経験してないのに懐かしくなる不思議。
(ととのうKさん)小学生失踪のトリックを解くと見え隠れする本筋の謎。アオヤマみたいな言い回しの違いも含め至る所に伏線が張られ、伏兵までも。
最後の真犯人の登場すらも伏線によって納得させられてしまう。最後まで楽しめる作品でした。
(twizさん)子供たちの話なので、最初は躊躇しましたが、読み進むにつれ、どんどん深みにはまっていきました。そして、色々な光景が頭に浮かんできまして。
岡崎さんらしい、あたたかい話で、ホロッときてしまいました。映像化されることを期待しています。
(よーちゃん29さん)
文庫最新刊『夏を取り戻す』刊行記念!
感想ツイートキャンペーン
※キャンペーンは終了しました。ご応募いただきありがとうございました!『珈琲店タレーランの事件簿』シリーズや『春待ち雑貨店 ぷらんたん』で人気の著者、岡崎琢磨先生の『夏を取り戻す』文庫化を記念してプレゼントキャンペーンを実施いたします。単行本刊行時には多くの作家や書評家が絶賛した、傑作ミステリの待望の文庫化です。この機会にぜひキャンペーンにご参加し、豪華景品をゲットしてください!
【応募方法】
応募期間内に「 #夏を取り戻す 」のタグをつけて作品の感想をツイートしてください。
※好きな場面やセリフを呟く形でも構いません(謎の解明に繋がるネタバレは厳禁です)。
※いただいたコメントは、ホームページ(特設ページも含む)およびTwitter、Facebook等で使用させていただく場合がございます。【プレゼント内容】
くらり図書カード(500円分)と岡崎琢磨先生サイン入りPOP(非売品)のセットを抽選で7名様にプレゼント
【応募期間】
2021/6/30(水)~2021/7/14(水)
【プレゼントの当選について】
当選者の方には
東京創元社公式Twitter(@tokyosogensha)より、DMにてご連絡させていただきます。
2021年7月下旬発送予定
©東京創元社 2024