小学四年生の「白野真澄」は、強い刺激や予想外の出来事が苦手だ。
なるべく静かに過ごしたいと思っているが、翔が転校してきてから、その生活は変化していく……(表題作)。
頼れる助産師、駆け出しイラストレーター、夫に合わせて生きてきた主婦、恋人がいるのに浮気をする大学生。
それぞれに生きづらさを抱えた「白野真澄」の、抱きしめたくなるような日々を見つめた傑作短編集。
- 今作に登場する5人の白野真澄さん
第1話 名前をつけてやる
「白野真澄は、真っ赤な自転車で通勤している」
白野真澄 31歳 助産師
“頼れる助産師”として働いているけれど、
心の中では葛藤がある。
モデルをしている美しい妹・佳織と仲良し。
けれど、その妹にも言えない秘密がある……。
第2話 両性花の咲くところ
「白野真澄は、リュックサックを背中で弾ませている」
白野真澄 25歳 イラストレーター
書店でアルバイトをしながら
書籍のカバーイラストなどを手掛けている。
家族や周囲と比べて、
「僕はなにに対しても中途半端だ」
と考えている。
第3話 ラストシューズ
「白野真澄は、水がふつふつと沸騰する鍋底を見つめている」
白野真澄 56歳 主婦
靴への愛が深く、シューズメーカーに勤めていた。
結婚して30年、仕事も辞めて、
すべて夫に合わせた生活を送っている。
第4話 砂に、足跡
「白野真澄は、下り階段に向かって大声を張り上げている」
白野真澄 20歳 大学生
最近妹が生まれて、
あまり家に帰りたくないと思っている。
中学から仲の良い彼氏と、
セレブな御曹司との間で気持ちが揺れている。
第5話 白野真澄はしょうがない
「白野真澄は、歩幅を大きく広げて横断歩道を渡っている」
白野真澄 小学四年生
繊細で大の人見知り。
心の急な変化が苦手で、
なるべく静かに過ごしたいと思っている。
転校生の翔があらわれて、その生活に変化が……。
【特別エッセイ】
「奥田亜希子」というペンネームは、結婚前の私の本名だ。秋に生まれたため、「あきこ」と名づけられたという。中学生まで植物と脳内で会話することを志していたほど夢想家だった私は、長らく自分の名前が好きではなかった。ロマンがあまりに足りない。それでも小説を書く際の名前に選んだのは、新人賞に投稿するうちに、ペンネームを考えるのが面倒くさくなってきたからだ。まあこれでいいか、という感覚だった。
まったく同じ名前のサッカー選手がいることを知ったのは、デビューが決まった直後だったと思う。私は運動が不得意で、中でもサッカーに対する苦手意識は強い。高校時代には、ボールを蹴る行為こそがサッカーの核であり、試合時間のほとんどを走ることになるサッカーはサッカーではない、あれは球技の皮を被った長距離走だ、という暴論を唱えていた。そんな私にとって、「奥田亜希子」選手の存在は衝撃的だった。この世界にはサッカーがとんでもなく上手い「奥田亜希子」がいるんだ! と思った(なお、奥田選手は2013年に引退されています。遅くなりましたが、お疲れさまでした)。
そういう驚きのことを考えながら書いた本です。楽しんでいただけたら嬉しいです。奥田亜希子(おくだ・あきこ)
1983 年愛知県生まれ。愛知大学卒。2013年『左目に映る星』で第37回すばる文学賞を受賞してデビュー。他の著書に『ファミリー・レス』『青春のジョーカー』『クレイジー・フォー・ラビット』『求めよ、さらば』『夏鳥たちのとまり木』などがある。
- 全国の書店員さんから絶賛&共感の声続々!
それぞれの白野真澄が抱える生きづらさ、苦しみを掬いとられ、はき出された後の爽快感たるや。小説は生きる力を与えるんだ。
ジュンク堂書店滋賀草津店 山中真理さん
「両性花の咲くところ」では、「中途半端でもいいのだ」と許された気がした。見方や光の当て方次第で、人生は何通りにも変化していく。彼らの行く末が、かすかに光って見えた。
丸善丸広百貨店東松山店 本郷綾子さん
さらりと読めてしまうのにいつの間にか価値観や固定観念の枠を少し緩めてくれる。
美味しいお菓子の詰め合わせのような短編集です。
ジュンク堂書店池袋本店 小海裕美さん
奥田亜希子はいつも、読者に向けて無垢な姿に解き放ってくれる。今回もそんな素晴らしい物語だった。
大盛堂書店 山本亮さん
「白野真澄」彼、彼女はきっと私の隣人だ。平凡な生活を送っているように見えて、彼らも、そして私も日々色々な事に直面して、色々な事を考えながら生きている。そんな私たちの当たり前の人生が、不思議で興味深くて愛おしく感じる。
東京旭屋書店新越谷店 猪股宏美さん
短編間のささやかなリンクに、ポッと温まります。白野真澄はしょうがない。なんてホッとさせてくれる言葉だろう。読んで癒される人、続出ではないでしょうか?!
うさぎや 矢板店 山田恵理子さん
5人の白野真澄のそれぞれの人生。共通するのは名前と一冊の本だけ。だけど、ぐらつく砂の上で踏ん張る強さをみんな持ってる。この世界のどこかで生きているような気がした。
水嶋書房くずは駅店 永嶋裕子さん
白野真澄という名前の5人の物語。それぞれに人生があって、同じ名前だから似たような性格や人生になるわけではなく。名前ってなんだ。その人を表すもの。……というわけでもない⁉ 名前について、ちょっと考えたくなるようなお話。
ブックセンタージャスト大田店 島田優紀さん
同姓同名でもみんな違う。でもみんな同じように生きている。まだ見ぬ私の同姓同名の人もきっと私とどこか同じでどこか違うことを想い、毎日を生き抜いているんだと漠然とそう思った。
ブックマルシェ我孫子店 渡邉森夫さん
同じ名前で住んでる地域も年齢も性別もそれぞれ違う。みんな悩みは違って、違う人生を歩んでる。当たり前なんだけどなんだか面白い。その視点はとても新鮮。
宮脇書店ゆめモール下関店 吉井めぐみさん
自分にとっての飯田和之は自分だけだけど他の飯田和之さんにも、それぞれ日常があり大事な人がいるのだろう。頭のかゆい所をのぞかれている気がしました。
書泉ブックタワー 飯田和之さん
白野真澄という同姓同名の人たちのそれぞれの物語。作風がそれぞれ異なっていて、まるで別々の作家さんが書いたかのように感じられることもこの作品の魅力だと思います。
幕張蔦屋書店 後藤美由紀さん
生きることは選択の連続だ。深い闇の先には希望の光が待っている。心の刺を優しく包みこむような確かな文学世界がここにある!
ブックジャーナリスト 内田剛さん
同姓同名の人にはいまだ会った事が無い人生ですがその人それぞれの人生があるんだろうなあと楽しく拝読いたしました。 自分自身をいつわり生きていくより不器用でも自分らしく生きていけるのが一番大切!!
ゲオフレスポ八潮店 星由妃さん
名前によって「決められた」人生って、結局その通りには行かないもの。自分の人生は、自分で作っていく。そういうこと。だって、「白野真澄」じゃしょうがないんだから。
精文館書店中島新町店 久田かおりさん
誰もが抱えるちょっとした秘密や悩みや不満や怒りを、あえて同じ名前を主人公に与えることで先入観をリセットさせる、ある作品ではミスリードさせる、しかし結末は私たちの日常を超えない。これが読後感の良さの理由なのだと思います。
図書館流通センター 松村幹彦さん
名前が好きかと問われたら、私は自分の名前が好きではない。でも選べないものはしょうがない、と思って生きてきた。「白野真澄」という名前を持つ五人それぞれの心の中を覗くと、彼らもなかなかに生きにくそうだ。
その名前と共に過ごすこれからの人生があたたかい光に包まれたものでありますように。
柳正堂書店甲府昭和イトーヨーカドー店 山本机久美さん
どの話も、気づいたら何度も心の中で「そうだよね」と頷いて、彼等を応援している自分がいて、少しだけ腹の底にある黒いわだかまりが取り除かれた気がした
文教堂ブックトレーニンググループ 青柳将人さん
年齢や性別も違う少し個性的な主人公達。でもなぜかそのさまざまな悩み・人生に共感できてしまう。どれも予想がつかないストーリー展開で、胸にすとんと小石が落ちたようにすっきり納得のラストがすごい。
丸善津田沼店 安井理絵さん
どのお話も今気になるテーマや問題が取り上げられていたり、自分の悩みに重ね合わせることができたりして、考えながらも楽しい時間を過ごせました。白野真澄、いい名前!
三省堂書店名古屋本店 田中佳歩さん
名前、性別、世間、婚姻、親子、囚われ続ける見えないラベルがこの物語の中でははっきり見えます。「両性花が咲くところ」が特に好きです。真澄の両親が素敵でした!
ジュンク堂書店名古屋栄店 西田有里さん
前を向いて歩いていこうという気持ちをいただきました!
紀伊國屋書店福岡本店 宗岡敦子さん
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